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先月28日にご紹介した「SF人喰い生物の島」(1975)のデヴィッド・クローネンバーグ監督の、「スキャナーズ」(1981)「ビデオドローム」(1982)という傑作に続いて撮った作品。字幕版にての放送です。
「デッドゾーン」(1983)
THE DEAD ZONE
小学校教師のジョニーはある夜、交通事故で意識不明の重体となる。昏睡状態のまま眠り続ける彼が目覚めたのはそれから5年の月日が流れた後のことだった。恋人も仕事も失い、母まで亡くしてしまい失意に陥るジョニー。そんな彼に、不思議に能力が芽生えていた。他人の体に触れた時、彼はその相手の未来をかいま見ることが出来たのだ。やがてジョニーは一人の男と出合う。上院議員選挙に出馬するその男と握手した瞬間、ジョニーは驚くべき未来を見る。その男、スティルソンはやがて米国大統領となり、そして核戦争によって世界を滅ぼすのだ。恐怖の未来を変えるため、ジョニーはスティルソンを殺す決意をする。
原作はホラー小説の大家スティーヴン・キングの同名小説。「小説は最高、映画になると最低」と言われることの多いキングの映画化作品ですが、キング本人も絶賛した通り本作は極めて完成度の高い成功例の一つであります。そもそもキングの小説は本筋には不要とも思える事柄を積み重ねることによって作品そのものの存在感を際だたせていくわけですが、時間の限られている映画ではまずそういう部分から削られてキングらしさが消え、空虚なダイジェスト映画になってしまうことが多いのですね。それを避けるには例えばキューブリックの「シャイニング」(1980)のように監督の作家性を前面に押し立てて作品そのものを作り替える方法もありますが、しかし完成したのはキングの「シャイニング」では無くあくまでキューブリックの「シャイニング」でありました。映画「シャイニング」自体は傑作ではあるものの、キングが不満を顕わにしたのもまた理解できるのです。
クローネンバーグ監督が「デッドゾーン」で選んだのは原作を出来るだけ忠実に映像に移し替えることでした。そのため長編の原作は激しく削られ、まさにダイジェスト的な脚本になりました。実を言えばジョニーが目覚めるまでの展開を急ぎすぎな部分が初見の時から不満で、それは今回の久々の鑑賞でも同じ印象でした。それ以外にも原作から削られて残念に思うシーンもあります。しかしそれでも多くのキング原作映画のような駄作に貶めることがなかったのは、それはクローネンバーグの作家性が補った結果でありました。完成したのはキングの「デッドゾーン」であると同時に確かにクローネンバーグの「デッドゾーン」でした。
「スキャナーズ」や「ビデオドローム」を見てきて「デッドゾーン」に不満を感じた人も多かった気がします。「デッドゾーン」にはそれまでの作品にあったようなグロテスクでエロティックな描写はほとんど無く、淡々と地味な描写が積み重ねられていく作品でした。しかしそれでも、この一人の不運な男を描く作品はまちがいなくクローネンバーグらしさに満ちた映画でありました。まずもって全編を通じての冷え冷えとした冷たい映像や空気が見事です。冬枯れた独特の風景描写は「SF人喰い生物の島」はもちろん「スキャナーズ」「ビデオドローム」でもお馴染みのものでした。そしてこれもお馴染みですが、クローネンバーグの映画にはなんと「悲劇の主人公」が似合うことか。望まぬ力を得て破滅していくジョニーの物語はキングの創造物ですが、なんともクローネンバーグらしい主人公でもありました。
悲劇の主人公を演じるのはクリストファー・ウォーケン。どちらかと言えば私には悪役のイメージの強い人ですが、実に上手くて好きな役者さんです。人当たりが良くて悪辣で嫌みな上院議員候補を演じるのはこれまた大好きな役者マーティン・シーン。翌年のやはりキング原作の「炎の少女チャーリー」(1984)でも嫌な感じに政府の高官を演じていましたね。
そしてジョニーの理解者である病院長にハーバート・ロム。「ピンクパンサー」シリーズのドレファス署長役が有名でもちろん好きなキャラクターでもありますが、数々の古典ホラーにも出演している名優です。「オペラ座の怪人」は舞台の人気もあって近年まで繰り返し映画化されていますが、その中でも特に好きなのはロムが怪人を演じた「オペラの怪人」(1962)だったりします。「ピンクパンサー3」(1976)でロム自身がその「オペラの怪人」のセルフパロディを演じていたのには笑わされましたね。
とまあ演技陣も好き役者さんで固められ、確かに地味すぎるほどに地味な作品ですが素晴らしい完成度を見せてくれた作品でありました。
放送記録:2006年03月168AM02:30~04:40毎日放送「映画へようこそ!」
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