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映画のコトやら何やら綴りませう
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「霧の街ロンドン」という言葉に、いつも奇妙な郷愁と恐怖を感じてしまいます。実際に行ったことは無いのですけどね。

最初の記憶は子供の頃にTVで見た映画だったと思います。
子供の頃は夏になるとTV各局がこぞってホラー映画や怪談映画を流していたものですが、極度の怖がりだった(いや、今もですが)ものの怖いもの見たさも人一倍だった私は恐怖に震えながらそれらを見ていたものでした。中でも特にお気に入りだったのが英ハマープロの怪奇映画であり、特に吸血鬼ドラキュラのシリーズでした。
クリストファー・リー扮するドラキュラ伯爵は気品と同時に凶暴な性格を併せ持ち、少年時代の恐怖の象徴でした。一方ピーター・カッシング扮するヘルシング教授は知的で冷静沈着な科学者でありながら、対吸血鬼となるとアグレッシブルな活躍を見せるまさしくヒーローでありました。この二人が対決するシリーズ第一作「吸血鬼ドラキュラ」(1957年)をどれほどワクワクしながら見たことか。そしてロンドンのどこか下町で、霧の向こうから現れるドラキュラの姿にどれほど恐怖したことか。子供心にその恐ろしい姿がくっきりと刻まれたのでした。

それからずっと下って学生時代、アガサ・クリスティを中心にミステリ小説に熱中していた私はその頃ようやくコナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズに手を出しました。なせ゜゛それまで読まなかったのに今更ながらに手を出したかと言うと、その頃ついにハヤカワ・ミステリー文庫からの刊行が始まったからでした。当時のSF小説ファンにも多くいましたが、私も同様にハヤカワ信者(複数の出版社から出版されている作品の場合、とにかくハヤカワ文庫で購入する)だったのです(笑)。
遅まきながら読み始めたホームズシリーズは本格推理ものと言うより、探偵小説、冒険小説と呼びたい内容でした。しかし熱中しました。19世紀末の優雅でありながら混沌としたロンドンの雰囲気に憧れ、近代の科学捜査がようやく始まろうとした時代に超人的な観察力推理力で難事件を易々と解決していくホームズの姿に興奮しました。そして、霧にガス燈の灯りもにじむロンドンの夜の風景に、ドラキュラ伯爵とともにパイプを燻らせながら犯人を追うシャーロック・ホームズの姿が付け加えられました。
ドイルの描いたホームズ譚をすべて読み終えた私は、もっと読みたいという欲求に従ってホームズもののパスティーシュ(贋作)にも手を出していきました。ホームズもののパスティーシュはそれこそ数え切れないほどあるし、邦訳されてないものも多いので実際に読んだのはごくごく一部ということになりますが。ドイルの息子アドリアン・コナン・ドイルとジョン・ディクスン・カーが書いた語られざる事件集「シャーロック・ホームズの功績」、W・S・ベアリング=グールドによるホームズ伝記「シャーロック・ホームズ ガス燈に浮かぶその生涯」、ニコラス・メイヤーがフロイド博士ら当時の実在の人物をホームズに絡めてその時代を生き生きと描き出した「シャーロック・ホームズ氏の素敵な冒険」のような本格ものから、H・G・ウェルズやブラム・ストーカーといったドイルと同時代の作家が書いた小説にホームズを絡める珍品、マンリー・W・ウェルマンとウェイド・ウェルマンの「シャーロック・ホームズの宇宙戦争」、ローレン・D・エスルマンの「シャーロック・ホームズ対ドラキュラ」といった珍品まで、そこにはホームズ譚を愛する作家達による様々なホームズの冒険がありました。

そしてそれらの作品を読み進めるうちに気づいたのは、ある殺人者の名前が登場する率がとても高いのではないかということでした。その名は切り裂きジャック。1888年に実在し娼婦ら多くの女性を殺して死体を切り裂いた実在の連続殺人鬼。事件の起こったイースト・エンド地区を中心にその神出鬼没さと猟奇的な手口でロンドンを震撼させ、そして最後まで逮捕されることなく多くの謎を残したこの殺人鬼を、同時代に活躍した名探偵シャーロック・ホームズを絡めたくなるのはファン心理としては当然なことと言えましょう。前出の「シャーロック・ホームズ ガス燈に浮かぶその生涯」やエラリー・クインの「恐怖の研究」、(ホームズではなく!)レストレイド警部が事件を追う「霧の殺人鬼」、やはり前出の「シャーロック・ホームズ氏の素敵な冒険」の続編「ウエスト・エンドの恐怖」(正確にはジャックの事件ではなく、それを思わせるような別の事件)等々、ジャックの正体も作家ごとにそれぞれ趣向をこらして実に面白いのです。

それまで切り裂きジャックのことは名前程度しか知らなかった私は、それから研究書や彼を主人公にした小説を読みふけることとなりました。深い霧の中で獲物を探し、女性を言葉巧みに廃屋に誘い込んで切り裂いた後、スコットランド・ヤードの捜査網を易々とくぐり抜けて再び霧の中に消えていく。頭の中に浮かぶ狡猾にして大胆、残忍な殺人鬼像は恐ろしいものでしたが、同時にミステリファンの心を揺さぶるものでもありました。かくしてドラキュラ伯爵とシャーロック・ホームズと共に、ロンドン霧の中に切り裂きジャックが息を潜めることとなりました。

霧の中に潜む不死身の怪物、残忍な殺人鬼。そして彼らを追いつめる名探偵。私が霧の街ロンドンを思い浮かべる時、彼らは常にそこに居るのです。

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