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SFTVドラマ「スター・トレック」――と言うより「宇宙大作戦」というタイトルで呼びたいですが――が大好きだった身としては映画「スター・トレック」(1979年)の制作情報を聞いたときは驚喜しました。あの「宇宙大作戦」を最新の特撮技術で大画面で観ることが出来るのだ! その後入ってくる情報にも期待は高まる一方でした。主なオリジナル・キャストの出演、監督はあの名匠ロバート・ワイズ、特撮にはダグラス・トランブルとジョン・ダイクストラ(そして降ろされたけれどボブ・エイブル)。ついに雑誌で公開されたニュー・エンタープライズ号もオリジナル版の雰囲気を壊すことなく、惚れ惚れするほど実に美しくリファインされたものでした。
そして公開された映画「スター・トレック」は期待に違わぬ出来でした。スケールアップされた「宇宙大作戦」らしいドラマに、(少し老けはしたけれど)懐かしい顔ぶれに、あくまで優雅で美しいエンタープライズ号の姿に感動すら覚えたのでした。
けれど、この映画の一般的な評価はあまり高いものではなかったような気がします。「スター・ウォーズ」(1977年)的なものを期待していたのでしょう一般観客からは「地味」「難解」と言われ、「宇宙大作戦」ファンの中からもTVシリーズの中のいくつかのエピソードをつなぎ合わせてスケールアップしただけで目新しさが無いとも酷評されました。こうした評価をもっともなものだと理解しつつも、でもだからこそこの映画「スター・トレック」は素晴らしいと思ったものです。そこに「スター・ウォーズ」のような宇宙船同士の戦闘も光線銃の撃ち合いも無いけれど、「宇宙大作戦」そのものが目の前に展開することが嬉しかったのです。
さて、その後公開された第2作目「スター・トレック2 カーンの逆襲」(1982年)を観た時、不思議な感覚を覚えました。前作以上の娯楽性とスリリングな展開に興奮しながらも、どこか「宇宙大作戦」ぽくない。それは「スター・ウォーズ」ブームにあやかったような(本来「宇宙大作戦」ではあり得ない)宇宙船同士の至近距離の撃ち合いがあったからではありません(実際作中でそういう状況に至る設定がしっかりしていたので不満はありませんでした)。そう、完成度は高いけれどどこか同人誌的と言うか・・・パロディ的と言うか。TVエピソードのキャラクターであるカーンが今回復活してカーク船長に戦いを挑むというファン泣かせのドラマにしても、そういったファンジン的な感覚を呼び起こさせるものでした。熱狂的ファンが作った「宇宙大作戦」のオリジナル続編エピソード――と言うと少しニュアンスがわかってもらえるでしょうか。
そして本作の監督の名前を確かめて、得心がいきました。
監督:ニコラス・メイヤー
ああそうか、この映画は「スター・トレック」のパスティーシュだったんだ。
メイヤーの名前は昨日書いた「霧の街ロンドン」の中にも出てきますが、シャーロック・ホームズの傑作パスティーシュ小説「シャーロック・ホームズ氏の素敵な冒険」の著者です。ちなみにこの小説は映画化され(「シャーロック・ホームズの素敵な挑戦」(1976年))、メイヤーは自ら脚本も書いています。これも大変面白い映画でした。
メイヤーは大のSFファンであると同時に有名なシャーロキアンであり「シャーロック・ホームズ氏の素敵な冒険」「ウエスト・エンドの恐怖」という傑作を執筆しました。そしてホームズファンの多くが辿る道、19世紀末の英国ロンドンへの愛着を持っていたのでしょう。
メイヤーは1975年のTVムービー「アメリカを震撼させた夜」の脚本を担当しています。これはオーソン・ウェルズ劇団がH・G・ウェルズの「宇宙戦争」をラジオドラマとして放送し、その内容を信じた人々がパニックに陥ったという実話をドラマ化したものですが、メイヤーがこの作品に関わっていたことは偶然とは思えません。そしてメイヤーが初監督作品として撮ったのが「タイム・アフター・タイム」(1979年)。
スコットランド・ヤードに追いつめられた切り裂きジャックが逃げ込んだのは、新作小説「タイムマシン」の完成記念パーティを開いているH・G・ウェルズの家だった。ジャックは身を隠そうとした地下室で奇妙な機械を見つけて乗り込んでみるが、突然彼を乗せたまま機械は消え去ってしまった。実はH・G・ウェルズは小説だけでなく、本物のタイムマシンまで完成させていたのだ(笑)。殺人鬼を別の時代に送り込んでしまった責任を感じるウェルズは自らもタイムマシンに乗り込むと、現代のロンドンにやってくる。そして現代でも殺人を繰り返すジャックを懸命に追うのだった。
現代のロンドンを舞台に伝説の殺人鬼切り裂きジャックをシャーロック・ホームズのごときスタイルで追い続けるH・G・ウェルズ。発想の楽しさもさることながら、そこにはその時代を代表するイコンが見事に揃っているではないですか(まぁ、さすがにドラキュラは居ませんが(笑))。パスティーシュの才人であり、SFとミステリをこよなく愛するメイヤーの、これは全世界の同じ趣味嗜好を持つ人々への贈り物だったような気がします。
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